「なして、それ切った?」


それ、の意味が分からずに首を傾げると、スーさんの長い指先が肩口に揺れる毛先をサラリと撫でたので「あぁ」と思い至る。
かつては背中の辺りで揺れていた僕の髪。二人で旅立った夜に切り落とした。


「長い旅をするには、ちょっと邪魔でしたからね」


それに、と心に呟き目の前にいる彼の双眸を仰ぐ。古い記憶が呼び起こされる。
あの時は分からなかったけれど、今なら理解出来る。


『短ぇ方が似合っどる』


そう言った貴方の眼は、とても優しかった事を。
そしてあの日、貴方には太陽よりも月が良く似合うと知った。

だから、僕はこの髪を切った。貴方と月の下を何処までも歩けるように。


「スーさんは、長いのと短いのとどっちが好きですか?」


少し首を傾け、頭を彼の手に預けるようにして尋ねてみる。答えは分かりきっているけれど。


「・・・短ぇ方がえぇど」


「良かった」


あの日から、長い月日が経ちました。
僕はまだ、貴方に相応しいままでいられていますか?




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