「・・・何で・・・」


「ん?何か言ったかい?」


「何でテメーがここにいやがるんだ?」


「そりゃあ、玄関から入ってこの部屋に辿り着いたからさ」


「分かった、質問を変えよう。何で玄関から入ってこの部屋に辿り着けた?」


「バカだな君は。玄関の鍵を開けたからに決まってるだろう?」


「じゃあ何で玄関の鍵を持っていたかを答えろ」


「もちろん、合鍵を持ってるからさ」


「・・・合鍵なんざ作った覚えは無ぇ!!」


寝起きの頭を必死に働かせて記憶を探ってみたんだろう。数瞬黙ったイギリスが、掴み掛かってきそうな勢いで叫んだ。
全く乱暴な紳士だ。
大体、君が合鍵作った覚えがあるはず無い。だってこれは。


「俺が作った物だからね!」


「ふざけんなぁぁぁぁぁっっっ!!!」


バコーンッ!と鈍い音を立てて、テキサスが吹っ飛んだ。
どうやら、机の上に出しっぱなしになっていた分厚い本が顔面にヒットしたらしい。クラクラと目の前に星が飛ぶ。


「っ〜〜〜〜!何て事するんだいイギリス!」


「そりゃこっちの台詞だ!!何勝手に合鍵作ってやがる!」


「だって君が合鍵くれないなら自分で作るしかないだろう!?」


「何だそりゃ!?何ルールだ!!?」


「もちろん俺ルー・・・・ぐはっ!!」


今度はインクビンが飛んできた。
危ない危ない、テキサスしたままだったら粉々に砕けてる所だったよ。


「何をそんなに怒ってるんだい?何か悪い事した??」


床に舞い落ちたテキサスを拾い上げてイギリスに尋ねると、次に飛んでくる予定だったらしい文鎮を握り締めたまま盛大な溜息を吐かれた。そのまま革張りの椅子にドサリと座り込んだので、もう物は飛んでこないものと判断してテキサスを定位置に戻す。


「・・・・も、いいからお前帰れよ。俺は忙しいんだ」


「さっきまでグッスリ眠ってたヤツの言う台詞じゃないね」


「っ・・・・!ホントに嫌な野郎だなお前はっ」


「でも、そんな嫌な俺が好きなんだろう?」


「んなっ・・・・!?」


イギリスの目が見開かれて、見る見るうちに真っ赤になっていく。
面白いなぁ。


「ばっ・・・・バカ言うな!!自惚れんのも大概にしろよなっ!!?」


「違うのかい?」


「当然だ!お前なんか嫌いなんだよ!!」


「奇遇だね、俺もさ」


あ、今度は固まった。
いかにもショックを受けたって顔で言葉に詰まってる。本当に見てて飽きない。


「嫌いで嫌いでしょうがないよ」


「っ・・・・・そうかよ・・・!」


「あぁ。嫌いだ嫌いだってずっと思ってたらさ、君が頭から離れなくなったんだ」


「・・・・は・・・?」


「四六時中君の事ばっかり考えちゃうんだ。参ったよ」


思わず肩を竦める。
イギリスは・・・・・まだ固まってた。


「おま・・・・・何言って・・・意味わかんねぇ・・・」


「知ってるかい、イギリス。この前日本に聞いたんだ」


ズイッと机越しに身を乗り出す。思わず逃げようとしたイギリスの襟元に下がるネクタイを掴んで、鼻先が触れそうなくらい間近まで引き寄せると、その唇が抗議を紡ぎ出す前に。


「『Hate』と『Love』は紙一重なんだってさ」


自分のそれで塞いでやった。


「だから、俺は君が嫌いなんだ」


さぁ、嘘で固めた愛を捧げよう。



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