外の熱気に満ちた喧騒で満たされた部屋の中、ガラッという窓を開く音だけがやけに鮮明に響く。吹き込む吹雪に思わず顰めた視界の中、銃を手に振り向く姿が映った。


「ロ・・・ロシアさん・・・?」


「ねぇ、リトアニア」


悲しい声。貴方は泣いてるのに、口元には笑みが浮かんでいる。


「仲良くなれない子は、いらないよね?」


「ロシアさん!待っ・・・・・!!」


制止しようと伸ばした手は虚しく宙を切る。翻った軍服とコート、白いマフラーの裾が窓の外へ消えていくのを見て、これから起こる惨劇を知った。
部屋の振り子時計が低く重たく2時を告げる。


「ロシアさん・・・!」


広場を埋め尽くしていた喧騒は、響き渡る銃声で悲鳴へと変わった。思わず飛び出しかけた窓の外、押しかけた労働者達は次々と凶弾に倒れて行く。男も女も子供も老人も分け隔てなく積雪の上に鮮血を散らす。


「あ・・・・あっ、う・・・ぁ・・・・」


銃声。悲鳴。怒号。逃げ惑う人々。銃弾を打ち続ける兵士達。
ここは、一体何処なの?




『仲良くなれない子は、いらないよね?』




孤独な人よ。貴方が愛されていない筈は無かったのに。
血で紅く染まった雪の上、あの人が微笑む姿が見えた。否、あれは泣いているのかも知れない。


「うわ・・あっ・・・あぁぁ・・っ!」


泣き叫ぶ俺の声も、阿鼻叫喚の前に掻き消される。





 ―ツァーリはいない―





誰かがそう呟いたのを、確かに聞いた。




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