おはようございます、フィンランドです。
スーさんの家に来て早や数年。環境は元々似たようなものだったので、生活に慣れるのもあっという間でした。最近は花たまごって言う可愛い子犬(名前付けるのに夜通しでスーさんと会議(?)してましたよ)も新たな生活の仲間に加わり、それなりに・・・それなりに幸せな日常を過ごしています。


・・・・・でも、朝起きたら世界が変わってました。


「あの・・・スーさん?」


「なじょした?」


なじょしたじゃないです。その膝に乗っかってるのは何なんですか。


「朝起きたらそこおっだ。椅子が冷てぇって言うからこっちさ座らせどる」


いえ、その配慮は確かに立派です。
でもですね?この状況でそれを膝に乗せる前にする事あるんじゃないですか?常識考えてみたら、そんなにのんびりとしているような状況じゃないんじゃないでしょうか?


「あの・・・警察には連絡しました?」


「行ってどげするもんでもねぇべ」


まぁ確かに。
僕らは言ってしまえば、国そのものなんですからそれを連れたまま警察なんかに行っちゃえば大混乱は必至ですよね。うっかり上司とか国民とか巻き込んで国際問題とかにもなりかねないですよね。
分かりました、そこは譲歩しましょう。


「めんこぐね?」


・・・目はクリクリで髪の毛はふわふわで手足もちっちゃくてほっぺもふにふにで。何が楽しいのか、スーさんの膝の上でゆらゆらと揺れてるし・・・。


「あぁ、確かに可愛いですね・・・・って違う!」


僕が聞いてるのはそれが可愛いかどうかじゃないんですよ!?
スーさん話通じてます?理解してます?僕のスウェーデン語は何か何処か間違ってます?辞書って何処にありましたっけ?本棚?確か書斎の一番左の棚の上から4段目の右から2番目に片付けた記憶が・・・・って!!


「だから違うって!!」


「「?」」


二人して首傾げないで。僕が何だかおかしい人みたいで可哀想になってきますから。
だからですね?つまり、僕が聞きたいのは。


「スーさんの膝に乗ってる『それ』は何なんですか!!?」


「やや」


・・・・・えっと、こう言う時はどんな顔するんでしたっけ?
笑えばいいと思います?
てゆーか、この人今何て言いました?やや?ややって確か子供の事ですよね?いやまぁ、確かに子供ですよ。クリクリお目々でふわふわくせっ毛で手足もちっちゃくて無邪気に笑っている子供ですよ。でもですね、今ここに、この家の中に子供がいる事って軽く異常事態じゃないですか?
まさか実はスーさんの隠し子で、母親と死に別れたからお父さんのスーさんを頼って単身この家までやってきて無事感動の親子対面を果たしてこれからは親子仲良く暮らしていこうって約束したところに僕がうっかり起きてきたとかって展開じゃないですよね?
って、それ何処の昼ドラですか。日本さんがとても好みそうなストーリーじゃないですか。


「ンな訳ねぇべ。俺の女房はおめだけだかんな」


「・・・こーゆー時だけあっさりと人の思考を読み取らないで下さい。しかも何か余計な事言いましたよね今」


ダメだ、全然話通じてない。何かもう話が通じてないとか言うレベルじゃない。意思の疎通どころか根本的に通じてない。最早自分がちゃんと言葉を喋っているのかどうかすら怪しいくらいに、何もかもが全くもって噛み合ってない。スーさんと生活始めて何年も経ってる筈なのに、今までで一番どうにもなってない。いっそこのまま実家に帰らせてもらおうかな・・・。


「ままー」


・・・・・え?
はい??今この子何て言いました??まま?ままって、あれですよね?「ママ」ですよね??と言うことは、この子の母親がここにいるって事ですか?
とりあえず万が一もしかしたらと部屋を見回してみて、念には念を入れて窓の外まで窺ってみたけど、そんな感じの人は全くもって視界に入ってこない。
そりゃそうだ、この家で生活しているのは僕とスーさんだけだし、一般の人がそうそう容易く入って来れるような場所でもない。そんな人がいたら確実に不法侵入者だもの。
と、言う事はですよ?つまり僕かスーさんか、どっちかに向かって今の台詞言った事になるよね。今この子はスーさんの膝に座ってて、こっちを見上げていて・・・視線は明らかに・・・


「・・・・僕?」


「まま」


・・・・・・・・・・・・・・


ごめんなさい、僕もうどうすればいいか分からないです。
こんなクリクリ眼で見上げられて、こっくり頷かれて「まま」と呼ばれたところで、僕の引出しの中には最善の対処法なんて仕舞われてません。むしろそんな物が仕舞われている人に今からお会いして師匠と呼ばせてもらいたいくらいです。
とりあえず断っておきますけど、僕産んでませんから。むしろ産めませんから。身篭った記憶ないですし、身篭れませんし。
・・・・・・行為についてはノーコメントですよ?


「フィン」


もう、何なんですか。
僕はもう何が何だか分からなくて混乱しているんですよ?その首輪がどうかし・・・・首輪?
え、何、何でこの子首輪着けてるの?趣味?いやいや、そんな趣味のある幼子がいる訳無いじゃないですか。
じゃあ親の趣味とか?て事は、僕らの趣味って事に・・・・。いやでも!僕にはそんな趣味無いし、スーさんにも・・・・多分。断言は出来ないけど、無いと思う。
って、だから僕はこの子の親じゃなくて!あぁもう!


「何で余計に混乱させるんですかぁ!首輪がどうかしたんですか!?」


「見覚えね?」

「見覚え・・・・?」


そう言われてみて、改めて冷静に首輪を見ると確かに見覚えのある首輪だ。
これは確か、花たまごが大きくなったから新しく替えてやろうと思ってスーさんと二人で選びに選んで決めた物・・・だと思う。真っ白でふわふわの花たまごに似合うように、薄い空色で止め具部分に付いたピンク色の花のチャームが揺れる可愛らしい首輪。
・・・そう言えば、さっきから花たまごが見えない。朝起きてきたら必ず飛び付いてきて餌と撫で撫でを強請るのに。


「・・・ちょっと待って下さい?」


花たまごがいなくて、その子がいて。
花たまごが着けていた首輪を、その子が着けていて?
ふわふわの髪の毛とクリクリの大きな目と人懐っこい笑顔と真っ白な肌と・・・・


「えっと・・・・まさか・・・・・?」


「ん」


スーさんがその子を撫でていた手を退けると、ふわふわの髪の毛が立ち上がるように膨らんで、その間に今まで隠れていた真っ白でペタリと垂れた・・・


「・・・・耳・・・・」


さらに、膝に座っていたその子を抱き上げてクルリと反転させると、ワンピース状態になっているダブダブのシャツ(多分スーさんが自分のを着せてあげたんだと思う)の後ろに空けられた穴からぴょっこり飛び出てる同じく真っ白でふわふわの・・・


「・・・・尻尾・・・・?」


「んだべ」


「?」


キョトンと見上げてる子供の頭を優しく撫でてるスーさんを見て、とりあえず僕は。


「おひゃあああああああぁぁぁぁっ!!!?」


今日一発目の絶叫で、驚いた小鳥達が慌てて飛び立っていく音を遠くに聞きながら考える事を一先ず放棄しました。



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